ドジャース1年目にしてワールドシリーズ制覇を成し遂げた大谷翔平(30歳)。MLBポストシーズン中のクラブハウスで、NumberWebの記者がドジャースのスター選手たちを直撃取材した。彼らの証言から分かった「ショウヘイが1年目からチームに溶け込めた理由」。【全2回の後編/前編も公開中】
「オオタニがどんな人なのか…緊張していたよ」
次に挙げられる、大谷がチームに溶け込んだ理由。それは大谷が“普通”なことにある。
じつは大谷と直接話すまで「どんな人なのか、少し緊張していた」と話す選手がいた。ワイルドな髭を蓄えるリリーバー、マイケル・コペック(28歳)である。
コペックは今シーズン途中の7月末、トミー・エドマンとともにトレードでドジャースに入団した。そこからポストシーズンまで、けが人が続出する投手陣の中で奮闘。ロバーツから信頼を勝ち取った。そんなコペックがリーグ優勝後のシャンパンファイトで、感極まりながらこんなことを言っていたのだ。
「ショウヘイ、ベッツ、フレディ。彼らくらいのスーパースターならば、自分の成績だけ考えてプレーしても不思議ではないよね。シーズン中だって、ケガをしないためにアクセルを緩めることだってできたはずだ。でも彼らはそんな素振りを一度も見せなかった。常に手を抜かなかった。彼らが誰よりもハードにプレーしているんだから、チームがまとまらないわけがないだろう?」
そして、ポストシーズンで戦うことについて、こう話していた。「平均的な、スーパースターではない選手でも、活躍すれば一夜にしてスターになれるチャンスがある。だからポストシーズンが好きなんだ」。コペックの発言の裏を返せば、こんな意味も含まれている。自分は現段階でスーパースターではない、と。
「ドジャースに移籍するまでは、オオタニと一度も話したことはなかった。打つだけじゃなくて投げる。そんなクレイジーなことをやる選手がどんな人なのか。興味があった反面、正直少しだけ緊張もしていたよ」
だが、合流してすぐに不安は霧散した。チームメイトと話す大谷を見て、彼が“普通”であることがわかったからだ。
控え捕手が語る…「三塁まで走って!」の真相
「彼はいつもふざけてくるんだよ」。笑いながらそう明かすのは、中継ぎ陣のひとり、ランドン・ナック(27歳)だ。
「(大谷は)ダグアウトで人をいじるのが好きなんだ。ベンチに座っていると、ひっそり隣にやって来て、顔を近くに寄せたり。それでこっちが驚くでしょう? その反応を見てケラケラ笑っている」
オースティン・バーンズも、ベンチで大谷と話すシーンが頻繁に見られる選手のひとりだ。バーンズは34歳、メキシコ代表の正捕手として2023年WBC準決勝で日本と対戦している。現在はドジャースでウィル・スミスに次ぐ控え捕手という立ち位置だが、キャッチャーとしての評価は高い。9月末のシーズン最終戦では、一塁ランナーの大谷が二塁ランナーのバーンズに送った「三塁まで走って!」と言わんばかりのジェスチャーが話題を呼んだ。バーンズによると同シーンの真相はこうだった。
「次の次の打者にテオスカー・ヘルナンデスが控えていた。テオがその時、ちょうど99打点だったんだよ。だから(大谷は)テオが100打点に届くように、私に三塁まで行ってほしい、と伝えたかったんだと思う。ベンチにいる時間が長いから、(DHの)ショウヘイと話すことも多いよ。今思ってるのは、ピッチング練習もしている彼に、いつかこう言いたいんだよ。『50-50を決めたし、もうピッチャーはやめてもいいんじゃないか?』って。そうすれば彼の困惑する顔が見られると思って(笑)。もちろん冗談だけど」
「オオタニが何度もチームを助けた」
最後に、大谷がチームに溶け込めた理由として忘れてはならないのは、彼の「安定感」だ。50-50やホームラン王といった派手な成績ではない。同僚たちが口々に「オオタニが何度もチームを助けた」と言ったように、ベッツやフリーマンが離脱中の試合に出続けた。そして打ち続けた。162試合中、159試合に出場した。
先述のコペックはこうも口にしていた。
「ショウヘイが意思するところに、ベースボールは動いていく」
誰よりも世界一を渇望する大谷が、どこよりも世界一が求められるチームに溶け込めないわけがなかったのだ。